○北広島町学校死亡等重大事故調査要綱

平成28年5月2日

教育委員会訓令第1号

北広島町学校死亡等重大事故調査要綱

(調査の目的)

第1条 本調査は、学校管理下等における死亡及び重大事故の原因や問題点を明らかにするとともに、今後の児童生徒等の事故防止及び安全管理等の改善策を検討し、類似の事故防止に資することを目的とする。なお、本調査は、民事・刑事上の責任追及やその他の訴訟等への対応を直接の目的とするものではなく、学校と北広島町教育委員会(以下「教育委員会」という。)として、上記の目的を踏まえて事実に向き合うものである。

(調査の目標)

第2条 調査を実施することによって到達すべき「目標」は、次のとおりである。

(1) 事故の兆候(ヒヤリハットを含む)なども含め、当該事故に関係のある事実を可能な限り明らかにする。

(2) 事故当日の過程を可能な限り明らかにする。

(3) 前各号を踏まえ今後の再発防止への課題を考え、児童生徒等の事故防止や安全管理の取組の在り方を見直し、必要な提言を行う。

(調査対象の事故)

第3条 対象の事故は、次のとおりとする。

(1) 学校管理下の教育活動中の死亡及び重大事故

(2) 学校生活に起因すると思われる児童生徒等の学校外での死亡及び重大事故

(調査の種類)

第4条 調査の種類は、次のとおりとする。

(1) 基本調査は、第2条第1号並びに第2号にかかわる調査とする。

(2) 詳細調査は、基本調査を補充する調査及び実地調査や重点を定めた調査など、第2条第3号を導くための詳細な調査とする。

(学校による基本調査の実施)

第5条 学校は、教育委員会等の助言と協力を得て、調査対象となる事故の発生後、次のような要領で速やかに基本調査に着手し、学校がその時点で持っている情報及び基本調査の期間中に得られた情報を迅速に整理する。得られた情報に基づく、事故に至る過程や原因の分析等は、「詳細調査」において行うものとする。

2 基本調査は、次の要領で実施する。

(1) 関係する全教職員からの聴き取り

 原則として3日以内を目途に、可及的速やかに全ての関係する教職員から聴き取りを実施する。

 事故後速やかに、関係する全ての教職員に記録用紙を配布し、事故に関する事実を記録する。事故発生直後にメモ等の記録を残していた教職員は、記録用紙を提出する際に、メモ等の記録も併せて提出する。

 緊急時対応に関する体制整備により、あらかじめ決めてあった役割分担等を踏まえ、記録の内容を基に、聴き取り担当とされている者(校長や教頭等)が聴き取りを実施し、記録を行う。教職員が話しやすいかどうかも考慮し、状況に応じて、支援を行う教育委員会が聴き取ることも考える。

 記録担当の教職員は、聴き取り担当及び関係する教職員が記載した記録用紙の情報を集約し、発生状況や事故後の対応について、時系列で整理する。

 学級担任や部活動顧問など、教職員自身が強いストレスを受けている可能性にも留意し、必要な場合は医療機関等の協力を得る。

 部活動指導員等、外部人材が派遣・配置されている場合には、当該外部人材からも聴き取りを実施する。

(2) 事故現場に居合わせた児童生徒等への聴き取り調査実施上の留意点

 事故現場に児童生徒等が居合わせたりするなど、事故発生時の事実関係を整理する上で関係する児童生徒等に対して聴き取りを行う必要がある場合には、児童生徒等への聴き取り調査の実施を検討する。

 事故現場に居合わせた児童生徒等は、甚大な精神的ショックを受けていることから、聴き取りの前には、保護者に連絡して理解・協力を依頼するとともに、保護者やスクールカウンセラー等の専門家と連携してケア体制を整える。

 調査実施に当たっては、調査への参加を無理強いせず、児童生徒等や保護者の意思を尊重する。

 学級担任や養護教諭などがあらかじめ定められた役割分担に従って聴き取りすることが考えられるが、その他の部活動顧問や担任外の教諭など児童生徒等が話しやすい教職員が別にいる場合には、聴き取る主体を限定することなく柔軟に対応することが望ましい。

 聴き取り調査は、聴取・記録・心のケアへの配慮という各観点が必要であり、できるだけ複数の対応者で臨むことが望ましい。

 心のケアの中で、何か気になっていることがあれば自然と語れる雰囲気をつくるよう工夫する。

(3) 遺族等との関わり・関係機関との協力等

 遺族等との関わりについては、事故発生(認知)直後から無理に状況確認をするのではなく、遺族等の心情に配慮し、今後の接触を可能とするような関係性を構築する。

 関係機関については、例えば、事件性のある事案の捜査や検視等を行う警察との協力、亡くなった児童生徒等と関わりのある関係機関(これまで対応していた行政機関、医療機関等)との情報共有を図る。

(4) 情報の整理・報告

 得られた情報の範囲内で、情報を時系列にまとめる。事実と推察は区分し情報源を明記するなどして整理し、整理した情報を教育委員会に報告する。また、必要に応じて広島県教育委員会担当課に報告する。

 基本調査で収集した記録用紙(メモを含む)は、詳細調査を行う際に重要な資料となる。すぐに廃棄することなく、一定期間保存する。

 学校及び教育委員会は、取りまとめられた基本調査の経過及び整理した情報等について適切に遺族等に説明する。

 事実関係の整理に時間を要することもあり得るが、必要に応じて適時適切な方法で経過説明があることが望ましく、最初の説明は、調査着手からできるだけ1週間以内を目安に行う。

 この時点で得られている情報は断片的である可能性があり、断定的な説明はできないことに留意する。

 説明に矛盾が生じないよう、原則として、遺族等への説明窓口は一本化する。

 事実関係を基に、事故に至る過程や原因等を検証するには、必要に応じて「詳細調査」に移行する。

 今後の調査についての学校及び教育委員会の考えを遺族等に伝えて、遺族等の意向を確認する。

(「詳細調査」への移行に関する考え方)

第6条 詳細調査は、基本調査等を踏まえ、必要な場合に学校事故対応の専門家など外部専門家が参画した検証委員会を設置し、事実関係の確認のみならず、事故に至る過程を丁寧に探り、事故が発生した原因を解明し、それによって学校並びに関係者に再発防止策を提言することを目指す。

2 詳細調査への移行の判断は、基本調査の報告を受けた教育委員会が行う。その際、必要に応じて、広島県教育委員会担当課から支援・助言を得る。

詳細調査に移行するかどうかの判断については、第三者的な立場の機関に意見を求めたり、外部専門家等の意見を求めたりして、その意見を尊重する体制とする。

3 原則として、児童生徒等の死亡及び重大事故等について、次のような場合に詳細調査を行う。

(1) 学校管理下の教育活動中

(2) 教育活動や学校生活が背景に疑われる場合

(3) 遺族等の要望がある場合

(4) その他必要な場合

4 遺族等の意向との関係

(1) 詳細調査の移行の判断に当たっては、遺族等の意向に十分配慮する。

(2) 遺族等が、これ以上の調査を望まない場合でも、詳細調査の必要性が高い場合には、詳細調査の実施について改めて遺族等に提案することも考える。

(3) 遺族等の意向により詳細調査の実施を見送る場合でも、教育活動が背景に疑われる場合や、その他必要な場合には、遺族等に対する聴き取り調査は難しいとしても、基本調査で得た資料を、守秘義務を担保した外部専門家等の助言を得ながら、得られた情報の範囲内での検証や再発防止策を検討することも考える。

(詳細調査の実施)

第7条 調査の実施主体(事故検証委員会の設置、関係事務処理等)は、教育委員会とする。その際、必要に応じて、広島県教育委員会担当課に支援を要請する。

2 事故検証委員会(以下「検証委員会」という。)の設置

(1) 死亡事故等の詳細調査は、外部の委員で構成する検証委員会を設置して行う。また、検証委員会における検証に当たっては、必要に応じて、関係者の参加を求める。

(2) 詳細調査は調停や和解を目的としたものではないが、事故に至る過程や原因を検証するには高い専門性が求められるため、中立的な立場の外部専門家が参画した検証委員会とし、調査の公平性・中立性を確保する。

(3) 検証委員会の構成

 検証委員会の構成については、弁護士や学識経験者、学校事故対応の専門家等の専門的知識及び経験を有する者であって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、学識経験者、職能団体や大学、学会等からの推薦により参加を図ることにより、当該調査の公平性・中立性を確保する。

 検証委員会の構成員について、守秘義務を課し、氏名は特別な事情がない限り公表する。

 検証委員会の構成員は、先入観を排除し、公平・中立な立場から、その専門的知識を生かし、可能な限り、多角的な視点から調査を行う。

 基本調査の結果等を踏まえ、詳細調査において、関係者に対し再度聴き取り調査を行う場合や多数の児童生徒等からの聴き取り調査等を行う場合は、当該学校の教職員や教育委員会の担当職員等が検証委員会の指示の下、事実関係を整理することも考える。

(4) 詳細調査の計画・実施

 検証委員会において、詳細調査の計画と見通しを立て、調査主体との間で共通理解を図る。具体的には、調査の趣旨等の確認と、調査方法や期間、遺族等への説明時期(経過説明を含む)、調査後の児童生徒等・保護者などへの説明の見通し等を検討する。

 プライバシー保護の観点から、検証委員会は非公開とすることができる。公開/非公開の範囲については、プライバシー保護及び保護者の意向に十分配慮した上で、個別事例ごとに関係者を含めて十分に協議する。なお、検証委員会を非公開とした際には、検証委員会の内容については、報告を受けた教育委員会が遺族等に適切に情報共有を行うものとする。

 検証委員会においては、概ね以下のような手順で情報収集・整理を進める。

① 基本調査の確認

基本調査の経過、方法、結果の把握、関係する教職員や児童生徒等に対する追加調査実施の必要性の有無を確認

② 学校以外の関係機関への聴き取り

警察や医療機関等、これまで対応していた行政機関等があれば聴き取りを依頼(守秘義務が課されていることが前提)

③ 状況に応じ、事故が発生した場所等における実地調査(安全点検)

④ 遺族等からの聴き取り

上記の情報収集においては、事故に至る過程の検証及び問題点・課題の抽出ができるようにするために必要な情報を明確にして行うこととする。

 必要な情報の一例

・ 児童生徒等の事故当日の健康状態

・ 指導の経過並びに死亡等に至った経緯

・ 指導(実施)計画、危機管理マニュアルの整備、研修の実施、安全点検・事後措置の実施、指導者・職員等の配置に関することなど(ソフト面)

・ 設備状況に関すること(ハード面)

・ 教育が行われていた状況(環境面)

・ 事前指導の内容等

・ 担当教員(学級担任、教科担当等)、部活動顧問等の外部指導者の状況(人的面)

・ 事故が発生した場所の見取り図、写真、ビデオ等

・ 事故発生時及び事後の対応や措置

・ その他必要な事項

(5) 遺族等からの聴き取りにおける留意事項

 遺族等に調査への協力を求める場合は、信頼関係の醸成と配慮が必要であり、必要に応じて、遺族等の心情を理解し、遺族等、検証委員会、学校や教育委員会をつなぐ役割を担うコーディネーターを確保する。

 客観性を保つ意味から、複数で聴き取りを行う。

(再発防止の提言)

第8条 事故に至る過程や原因の検証(分析評価)と再発防止・学校事故予防への提言を行う。

(1) 事故に至る過程や原因の検証(分析評価)は、目的と目標に基づいて客観的に行われることが必要であり、検証委員会の構成員は常に中立的な視点を保つ。

(2) 事故が起きた後の時間の経過等に伴う制約の下で、可能な限り、偏りのない資料や情報を多く収集、整理し、それらの信頼性の吟味を含めて、客観的に、特定の資料や情報にのみ依拠することなく総合的に分析評価を行うよう努める。

(3) 基本的にはある程度委員間で一致した見解を取りまとめる方向での調整が必要だが、それぞれの委員の専門性の違いなどがある場合には、複数の視点からの分析評価を取りまとめることも想定する。

(4) 事故に至る過程や原因の検証で、複雑な要因が様々に重なったことが明らかになる場合もあると思われるが、それぞれの要因ごとに、児童生徒等の事故を防げなかったことの考察などを踏まえて課題を見つけ出すとともに、児童生徒等を直接対象とする安全教育の実施を含め、当該地域・学校における児童生徒等の事故の再発防止・事故予防のために何が必要かという視点から、今後の改善策を、可能な範囲でまとめる。

(報告書の取りまとめ)

第9条 教育委員会は、次の内容例を参考に、必要な内容を加えるなどしてそれまでの検証委員会における審議結果から報告書素案を作成し、検証委員会で審議・決定する。

Ⅰ 町及び学校における教育の現状等(事故に関連する内容を中心に)

Ⅱ 検証の目的

Ⅲ 検証の方法

Ⅳ 事例の概要

Ⅴ 明らかとなった問題点や課題

Ⅵ 問題点や課題に対する提言

Ⅶ 今後の課題

Ⅷ 会議開催経過

・検証委員会の委員名簿

・参考資料

(1) 報告書に記載する内容、公表内容及び対象については、調査の実施主体である教育委員会と協議して検証委員会にて判断する。

(2) 検証委員会は、調査結果を調査の実施主体に報告する。

(3) 報告書の公表

 報告書の公表は、調査の実施主体である教育委員会が行うこととする。

 報告書を公表する際には、遺族等や児童生徒等など関係者へ配慮して公表内容、方法及び範囲を決定する。

 先行して報道がなされている場合など、状況に応じ、報道機関への説明についても検討する(報道機関に提供する内容、範囲については、遺族等の了解を得る)

 報道機関に対して報告書を公表する場合は、遺族等への配慮のみならず、個人が特定できないような措置をとるなど児童生徒等への配慮も行う。

(4) 遺族等への適切な情報提供

検証委員会での調査結果について、教育委員会が遺族等に説明する。

(5) 報告書の調査資料の保存

報告書に係る調査資料は、北広島町文書事務取扱規定に基づき適切に管理する。

(再発防止策の策定・実施)

第10条 調査の目標・目的に照らし、今後の学校事故予防・再発防止に調査結果を役立てる。

(1) 教育委員会は、報告書の提言を受けて、当該校の教職員や同地域の学校の教職員間等で報告書の内容について共通理解を図り速やかに具体的な措置を講ずるとともに、講じた措置及びその実施状況について、適時適切に点検・評価する。その際、広島県県教育委員会担当課に必要な支援・助言を求める。

(2) 教育委員会は、報告書の提言を受けて、必要に応じて、遺族等にも協力を求め、追加的な再発防止策を策定することも考える。

(3) 検証委員会から調査結果の報告を受けた教育委員会は、報告書を公表した後、広島県教育委員会に報告書を提出する。

この訓令は、平成28年5月2日から施行する。

北広島町学校死亡等重大事故調査要綱

平成28年5月2日 教育委員会訓令第1号

(平成28年5月2日施行)