
地域の集会所が直面した「維持管理」という課題
すべての始まりは、原東地区で長年親しまれてきた「原東生活改善センター」の今後のあり方について、北広島町からお話をいただいたことです。町が所有するこの建物を、地域へ無償譲渡してはどうかというご提案でした。
地域住民が集まる大切な場所ではありましたが、当時の建物は築40年以上が経過しており、老朽化が進んでいました。「無償で譲り受ける」ということは、その後の維持管理や修繕にかかる全ての責任と費用を住民で負担することになります。これまでは町の施設でしたので、何か不具合があれば町に修繕をお願いすることができました。しかし、地域が所有するとなれば、今後の修繕費等がどれほど膨らむか見通せません。「もしかしたら、維持していく方が地域にとって大きな負担になるのではないか」という懸念がすぐに持ち上がりました。何度も地域の皆さんに集まっていただき、説明会や議論を重ねた結果、「場所としては絶対に必要だけれど、老朽化した建物をそのまま受け入れるのは難しい」という結論に至り、一度はお断りせざるを得ないというお話をさせていただいたのです。
「新築」への高い壁と、運営費を巡る地域での話し合い
私たちの懸念をお話しすると、町からは「それならば、いっそ新しく建て替えてみてはどうか。どちらにしても地域に集会施設は必要でしょう」と新たな提案をいただきました。
しかし、建て替えるとなれば、今度はその莫大な建築費用をどう確保するかが大きな課題となります。とても住民だけで出しあえる金額ではありません。「それなら、今の古い建物をできる限り大切に使いながら、将来のことはその時にまた考えようか」という方向に意見が傾きかけました。そんな折、町から新たな支援策がもたらされました。「宝くじの助成金を申請して、建て替えを目指してはどうか」という内容です。これなら地域活動に十分な施設が建ちそうだということが分かり、一筋の光が見えた気がしました。しかし、再度地域の皆さんに諮ったところ、やはり「建て替えた後の日々の運営費用はどうするのか」という現実的な問題に直面しました。
実は、敷地内にはもう一つ、もともと地域の持ち物である「講堂」があり、そちらは周囲の地区からの負担金や利用料をやりくりして運営をしています。もし新しい交流センターの維持費も自分たちで賄うとなると、各ご家庭に追加の負担をお願いしなければ計算が合いません。「地域のつながりは守りたいけれど、新たな金銭的負担が増えるのは難しい」この切実な思いを地域で共有した結果、再度お断りせざるを得ないのではないかという局面に立たされたのです。
雪国の懸念を乗り越えた「屋根貸し太陽光」というアイデア
地域として運営費の負担に頭を悩ませていた時、町からさらに一歩踏み込んだアイデアが提示されました。「新しい建物の屋根に太陽光パネルを載せて、その売電収入を運営費に充ててはどうか」という提案です。
初期費用については、町が新しく立ち上げる一般社団法人北広島町地域エネルギー会社(以下、きたひろエナジー)が事業主となって設置するため、地域側の負担は一切ないとのことでした。また、実際の発電量に応じて収入が変動する形ではなく、太陽光パネルを設置するためにきたひろエナジーへ屋根を貸し、その賃貸料として毎年固定の“屋根貸し料”をいただくという契約です。これならば、毎年決まった安定収入が地域に入ってきます。
「自分たちの費用負担なしで建物が新しくなり、なおかつ懸念だった運営費も、屋根貸し料によって住民に負担をかけずに賄える」この安心できる仕組みを丁寧に説明したことで、ようやく地域の皆さんからも「それならぜひ進めよう」という了解を得ることができました。その後、無事に宝くじの助成金も当選し、プロジェクトは急ピッチで動き出しました。正直に申し上げますと、私たちは最初から「環境のために再生可能エネルギーを導入しよう」という高い理念を持っていたわけではありません。地域の拠点を住民負担なしでいかに持続させるかという課題に向き合った結果、町から提案された再エネの仕組みが解決策となったのです。

建て替えがもたらした快適性と、再エネへの住民の視点
新しくなった「原東交流センター」での活動は、驚くほど快適になりました。以前の建物はコンクリートブロック造りで冬は寒く、雨漏りや壁のヒビもあり、網戸すらない状態でした。それが今では、木造の温かみがある明るい空間になり、エアコンや網戸も完備されています。現在は「元気体操」のサークルが週に2回ほど定期的に使ってくださっているほか、子ども会、地域の交流会などで幅広く活用されています。「部屋が明るくなって気持ちいい」「夏も冬も快適に集まることができる」と、皆さん本当に喜んでいます。
一方で、「屋根の上の太陽光」そのものに対する住民の意識には、少し温度差もあります。当時、町や事業者の方々と直接議論を重ねてきた役員メンバーは、「この屋根の上の太陽光のおかげで、住民負担ゼロでこの施設が維持できている」という仕組みのありがたみを深く理解しています。しかし、普通に利用されている一般の住民の皆さんは、普段は屋根の上のパネルをあまり意識されていません。太陽光に関する話題といえば、「地域行事のとんどをする時に火の粉が飛ばないか」とか、「冬の落雪は大丈夫か」といった、安全面への心配事の方が先に出てくるのが自然な姿でもあります。
電気がどこから来てどう運営を支えているのかは普段の生活で意識することはありません。先進的な取り組みですので、利用される住民の皆さんにも、その仕組みやメリットがより自然に伝わっていくといいなと感じています。
地域のエネルギー会社「きたひろエナジー」への期待
今回のプロジェクトを通じて、私たちは町が中心となって設立した新電力会社「きたひろエナジー」に協力をいただきました。だからこそ、今後はこの会社が「地域でどのようなビジョンを持ち、どんな未来を描いているのか」を、もっと住民に向けて積極的にアピールしてほしいと期待しています。
民間企業からも太陽光設置の営業が来る時代ですので、一般の住民からすると、町が関わっている電力会社ならではの強みや特色が見えにくい部分もあります。単に「ゼロカーボンを目指す」という公的な理念だけでなく、「この会社が活動することで、具体的に北広島町にどういう経済的効果があるのか」「電力料金が高騰する中で、地域にどのようなメリットが還元されているのか」という、暮らしに直結する特色が伝わると、住民側もより親しみと納得感を持てるはずです。
例えば、町内にある「川小田小水力発電所」の存在も、一般にはまだ広く知られていません。私は幼少期に芸北の電気自給の歴史に触れる機会があったため、地域で電気を作って維持することの価値や難しさがよく分かります。川小田小水力発電所が今も現役で活躍し、それが巡り巡って私たちの屋根貸し事業の安定性にもつながっていると聞いたときは、非常に心強く安心いたしました。こうした地域の素晴らしい再エネの現場やストーリーを、見学会などを通じて住民に広く発信していただければ、地元の方の「地域エネルギー」に対する興味もふくらみ、会社への応援の気持ちもさらに強まるのではないかと思います。
新しい名前に込めた、地域コミュニティの未来への願い
当初、施設の無償譲渡というお話をいただいた際、私たち地域住民がこれほど真剣に話し合いを重ねたのは、単に「建物の管理」という問題だけではなかったからです。私たちにとって、この集会施設は地域のコミュニティと伝統を守るための「絶対に欠かせない拠点」だったからです。
この原東地区には、春には伝統の原東大花田植、夏には盆踊り、秋の神楽、そして冬のとんどなど、数多くの大切な行事があります。これらを維持していくのは大変な労力が要りますが、それでも続けるのは、ここで育つ子どもたちに「自分のふるさとにはこんなに温かい思い出がある」ということを心に刻んでほしいからです。最終的に、町との連携と再エネの仕組みによって、納得のいく形で決着できたことを嬉しく思っています。
新しくなった建物は、地域の皆さんからアイデアを募集し、話し合って新しい名前を決めました。そうして誕生したのが、「原東交流センター」です。名前に「交流」という言葉を入れたのは、「みんながここに集い、しっかりと交流を深めていこう」という、一人ひとりの前向きな願いが込められているからです。この新しい拠点を舞台に、これからも地域の絆を育み、次の世代へとこのコミュニティを引き継いでいきたいと考えています。






【地域からのお知らせ】
令和8年8月14日(金曜日)午後8時より「原東交流センター」周辺にて「原東夏まつり」が開催されます。