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ええね!再エネ ~エネルギーとわたし~Vol.03

印刷用ページを表示する更新日:2026年9月1日更新

北広島町立芸北中学校 教諭 茅ヶ迫 宏樹 さん

地域から考える未来のエネルギー                   ~ふるさとの自然を“生きた教材”に。芸北中学校の環境教育がつなぐ子どもたちの誇りと地域の未来~

​地域そのものが教室。足元の自然からひらく芸北の未来

 芸北中学校で理科や環境教育を担当されている茅ヶ迫(かやがさこ)先生。ご自身も芸北中学校の出身であり、地元への深い愛着と強い想いを持って教壇に立たれています。

 今回は、茅ヶ迫先生が大切にされている「地域そのものを教室にする」教育観から、地域に深く関わる探究学習、そして地域の象徴的な再エネ施設である「川小田小水力発電所」での見学を通じた子どもたちの様子について、丁寧にお話しいただきました。

芸北中学校-茅ヶ迫先生

恵まれた環境を活かした教育実践

 芸北中学校に着任して今年で3年目になりますが、どこを見渡しても豊かな自然が目に入る環境ですので、これをいかに授業に活用できるかを考えて日々教育に取り組んでいます。私自身もこの芸北地区で育ちましたが、昔は山の中に秘密基地を作ったり川で泳いだりと、自然のなかで遊ぶのが当たり前でした。

 現代の子どもたちはゲームやオンラインでの繋がりが中心になり、川や自然のなかで遊ぶ機会が少なくなくなっていると感じます。危険と隣り合わせな部分もあるため「絶対に川へ遊びに行ってほしい」とまでは言えませんが、芸北の川や水は本当に美しいですから、子どもたちが安全に自然と触れ合える環境が整っていくと素晴らしいなと思っています。

 

実物に触れ、五感で学ぶ理科授業

 私が担当する理科の授業では、“地域そのものが教室になる”という感覚を大切にしています。都市部の学校ですと教科書の写真を見て終わってしまうような学習も、芸北では実際に本物を持ってきたり、現場へ見に行ったりすることができます。写真や文章だけでは伝わりにくいことも、現地で実物を見ることで、においや空気感を五感で感じられ、水の冷たさや地域の方々の想いにも触れることができます。

 例えば生徒たちは、教科書に出てくる“綺麗な水にすむ生き物”を、学校周辺の川で探すことができるんです。教科書の中の知識が“実際に目の前にあるんだ!“と結びついた瞬間、子どもたちの学習意欲は一気に高まります。芸北の子どもたちは外での活動がとても好きです。少人数の学校ですから、3年生が外へ出かけようとしていると、下級生が「どこに行くんですか?」「小水力発電所ですか? 良いですね」と声をかけてくれます。先輩の楽しそうな姿を見て成長しているため、学年が上がると次の活動をとても楽しみにしています。本当に素直で、まっすぐに育っている生徒たちだと感じています。

 

地域と繋がり“自分の言葉で語る”ための3年間の探究学習

 芸北中学校では、総合的な学習の時間などを通じて、1年生から3年生まで地域に深く関わる探究学習を行っています。

 1年生は、八幡の自然を案内する『トレッキングガイド』に取り組みます。実際にプロのガイドの方から講習を受けて、まずは芸北小学校の3、4年生を案内し、秋には一般のお客様をお迎えしてガイドを行います。芸北の植物や生き物について、子どもたちが自分の言葉で伝えていく。もう何年も続いている大切な学習です。

 2年生はNPO法人西中国山地自然史研究会さんと協力し、『芸北茅(かや)プロジェクト』に取り組んでいます。このプロジェクトは、芸北に生えている茅を活用することで、伝統的な建築物や技術を伝えるとともに、ススキ原の生き物を守り、地域通貨の流通を通じて地域を活性化させる取組です。芸北中学校の生徒が中心となって行い、子どもたちが地域の資源や自然、経済について学ぶ機会を作っています。2学期には、実際に茅を刈り取る体験を行わせていただきます。この茅は、芸北で使える地域通貨“せどやま券”に交換することができます。この仕組みを通じて、自然環境と地域経済の循環を身をもって学んでいます。  

 3年生になると『芸北マルシェ』として、広島市内の中心部へ出向き、地元の特産品を販売する取組を行っています。地域の事業者様へ自分たちで提案に行き、どの商品を売るか、価格はいくらにするかなどを一から交渉します。販売時は「こういう商品です」とお客様に説明する必要がありますので、商品の魅力や背景をしっかり勉強した上で販売に臨んでいます。

 トレッキングも、茅プロジェクトも、マルシェも、“芸北のことを自分の言葉で語る”という非常に貴重な経験になっています。

 

川小田小水力発電所の見学と生徒たちの気付き

 3年生の環境学習や河川教育の中で、2025年から新しく始めた学習があります。川小田小水力発電所の見学です。北広島町環境生活課の方にご協力いただき、脱炭素についての学習を進めるなかで「芸北地域に小水力発電所がある」とお聞きし、実現しました。水力発電機器メーカーのイームル工業様にもお越しいただき、出前授業を行っていただきましたが、実は地元出身の私自身もそもそも発電所の存在を詳しく知らず、発電所に行くのも初めてでした。生徒たちを連れて見学に行った際、「自分たちの学校で使っている電気がここで発電されているんだよ」という説明に、生徒たちはとても驚いた様子でした。

 水力、風力、火力……言葉だけなら教科書で教えることはできますし、生徒たちも知っています。「見慣れている川の水など身近な自然がエネルギーになり、そこで作られたエネルギーが自分たちの暮らしに使われている」という繋がりを、生徒たちがイメージできるよう、普段から心掛けて授業を行っていますが、川小田小水力発電所という“実物”を直接見て学習することができたことは、すごくいい経験になったのではないかと思います。

 自分たちの暮らしと結びつくことで、学びの深さは全く変わります。見学の際には、北広島町芸北支所の方からも直接お話を伺いました。この方は、町職員という立場だけでなく、芸北地域の方としても子どもたちにも知られていますし、小水力発電所を全く知らない外部の人が運営しているのではなく「地元の方々が関わって成り立っている」ということが分かることで、子どもたちの心に強く残ったのではないかと感じています。

 

脱炭素を身近に感じるために

 芸北に赴任して、教科書に書いてあることだけではなく、身近に教材となるものがたくさんあることを知りました。3年生の理科の「環境」という単元では、北広島町の脱炭素の取組を勉強したり、町職員の方から直接お話を聞く機会を設けています。授業のなかで「自分たちにできることって何だろう?」と問いかけたところ、生徒たちからは「部屋の電気をすぐ消す」「冷蔵庫をすぐ閉める」といった身近なアイデアが出てきました。小さな行動が、環境を守ることに繋がっている、町の取組みに自分たちも参加できていると生徒たちにも感じ取ってほしいです。

 私はこの分野を通して、「少しの心掛けが、将来の芸北の未来を守ることに繋がるんだよ」ということを伝えていきたいと思っています。環境問題は遠い世界の話ではなく、自分たちの毎日の暮らしと深く関わっています。そこに生徒たち自身が気付いてくれることが理想ですが、難しくもありますので、少し手助けをしてあげて、そこに気づかせてあげることこそが、教員の役目なのではないかと感じています。「私たちに何ができるのか」ということを考え、育っていってほしいなと思っています。

 この芸北中学校は地域との繋がりが深い学校です。地域の方が生徒たちに話をしてくれる機会も多くありますので、総合的な学習に限らず、ほかの教科でも関わりがもてるといいなと思っています。そうした繋がりのなかで、地域の人たちの困っている声に応えて、中学生が一緒になって問題について考えたり、すぐには解決できなくとも大きくなった時に力になることができるようになる、そんな関係性ができたらいいですね。

 

誇りを持って芸北の魅力を語れる大人へ

 こうした授業での体験や夏休みの調査などを通して、生徒たちが自分たちの住む地域への理解を深め、誇りを持ってその魅力を発信できる担い手になってくれたらと願っています。将来、進学などで一度は芸北の地を離れることになるかもしれません。無理に「絶対に芸北に戻ってきなさい」とは言えませんが、大人になって別の場所で暮らすことになったとしても、「私が育った芸北には、こんなに綺麗な自然や素晴らしい環境があるんだよ」と、自分の言葉で語れる人物になってほしいのです。“自分たちにできる小さな取り組みが、将来の芸北という地域を守ることにつながっている”これからも地域の方々の温かいお力を借りながら、子どもたちが自分たちの手で地域と未来を守っていけるような、生きた学びを届けていきたいと思います。

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未来へ繋ぐ「地域の川マップ」構想

 芸北中学校に伺ったのは夏休み。取材の最後に、茅ヶ迫先生は夏休み中の取り組みについて語ってくださいました。3年生に出している夏休みの宿題は、身近な川の調査や、家族への聞き取り調査。昨年は、「昔に比べて蛍が減った」「昔はもっと川で遊んでいた」などご家庭ごとの地域の歴史が集まってきたそうです。生徒たちが調べてくれる地域の記憶や記録は、まさに宝物です。

 先生は、「生徒たちの情報を大きな地図にまとめて貼り出せば、『地域の川マップ』ができる。毎年データを蓄積していけば、学校や地域にとって素晴らしい資料になります。私がこの学校にいる限り、ずっと続けていきたいですね」と笑顔でお話くださりました。

 足元の自然に触れ、地域の歴史を知り、未来へ繋ぐ。茅ヶ迫先生の情熱と子どもたちの探究心が形になる「川マップ」が、芸北の新たな財産になっていく未来を今から楽しみにしています。