ずいぶん前から、予感だけはあるのです。綿のような雪が降る日、晴れたのに冷え込まない夜、土が露(あら)わになる田んぼ。そんなひとつひとつを数えながら新しい季節を迎えるのは、何か焦(じ)らされているようにも感じます。
ゆっくりと水が流れる湿原も、雨水を迎えてもなお、じっと何かを待っているようです。
リュウキンカはそんな湿地の水路を、黄色に埋め尽くす花です。
「雪解けとともに咲く」と紹介されることもありますが、芸北では穀雨の頃から咲きはじめ、立夏の頃に盛りを迎えるので、夏を呼ぶ花の印象があります。姿が似ているエンコウソウの茎が横にはっていくのに対し、茎が立ち上がって咲くので「立金花」の名が付いたと言われています。
5〜6枚の花弁のように見えるものは萼片(がくへん)で、花弁はありません。キンポウゲ科の仲間には、花の色や形が同じ種の中で多様に変化するものが多いようですが、リュウキンカも同様で、同じ湿原に生えていても、萼片(がくへん)の数や形、雄しべや雌しべの数は様々です。
日本の中でリュウキンカが生育している場所は中部以北に多く、中国地方では三朝町や恋ヶ窪湿原、赤名湿地、そして八幡湿原など、飛び飛びに分布しています。九州でも福岡、大分、熊本の3県にしか見られず、熊本より南には生育しません。どうやらリュウキンカは寒いところを好む植物のようです。分布の範囲は広いのに、それぞれの生育地はずいぶん離れています。リュウキンカは、地球全体が今よりもずっと寒かった「氷河期」に分布を拡げましたが、今のような暖かい時代になったために、西日本の暖かい場所では生き残ることができずに、山地の湿地に生きていたものだけが生き延びたのだと考えられています。
昨今、八幡では「暖かいね」「おかしいね」という挨拶を交わすことが多くなりました。雪深い場所だからこそ、待ち遠しいと思う間もなく訪れる春を皆さんが感じているようです。氷河期から細々と生き延びたリュウキンカが同じように感じているとしたら、さて、何を思うのでしょうか。
高原の花だよりNo.61
広報きたひろしま 平成22年3月号掲載
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