扇谷の上から千町原を見下ろすと、風が季節を運んでくるように感じます。
千町原の名前のとおり、広々とした草原にはススキが波うち、野草が咲き乱れて、典型的な高原の風景を見せています。
全国の高原地帯に見られるマツムシソウは、マツムシソウ科の多年草です。淡い紫色の花は、青味がかったものから赤色が強いものまで変異があります。たくさんの花が集まった花序の外側には、花弁の大きな花が並び、中よりの花は筒のような形をしています。このような作りは、ヒマワリなど、キク科の花にも似ています。それぞれの花の花びらは5つに切れ込んでいて、外側の花はそのうちの3片が大きくなっています。
マツムシソウは、タンポポのように地面に張り付いたロゼットの形で生活しています。種から芽生えると、光合成で根に栄養を蓄えながら、次第に成長していくようです。草原に群生するのは、この生活様式と関係があります。夏までの間は、ロゼットの状態なのでマツムシソウ自身は刈られにくく、他の草が刈られることでたくさんの光を受けることができます。また、刈られたとしても根に栄養を蓄えているので、再び生長することができます。夏が盛りを迎え、お盆を過ぎる頃になると、茎を高く伸ばして花を咲かせます。干し草にするのに良い草を取るためには、お盆の前までに草を集めないといけないので、お盆を過ぎると草刈りの回数も減ったそうです。マツムシソウの生活は、草を使っていたころの農家の生活と、ちょうど相性が良かったようです。
昭和初期に千町原で撮影された写真には、マツムシソウの大群落を見ることができます。しかし今日では、八幡高原を歩いても、マツムシソウを見ることはほとんどありません。千町原に秋を運んだ薄紫の風が、もはや幻になってしまったと思いながらも、何か出来ることが無いかと探してしまうのは要らぬお節介というものでしょうか。
高原の花だよりNo.31
広報きたひろしま 平成19年9月号掲載
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